TDR125(EU)~リミッターカットの方法とフルパワー仕様のセッティング

【O~U】
TDR125をフルパワーに

 

TDR125をフルパワーに

殆ど街中で見かけない希少車両『TDR125』
ノーマルでは非力なこのオートバイをフルパワー化した記録を解説しています


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ノーマル7PS→フルパワー15PSに

様々なサイトで紹介されているので特に難しい事はありませんが、私の所へ依頼が来た車両は一般的なフルパワー用セットアップではまともに走らない車両でした。同じ様に苦心されているユーザー様に向けて作業の流れから検証まで含めて解説していますので是非参考にして下さい。

入庫車両は5000回転で頭打ち、発進直後からギクシャクしてとてもUターンなどしようと思えない程酷い状態の車両でした。スピードもやっと40km出る程度、まるでキャブレターが詰まっているかの様な感じです。
キャブレターを一旦外しジェット類のセッティングデータを取って分解・洗浄、詰まりが無いか確認した後、再試乗してみたものの症状は変わりませんのでこのままフルパワー化を始めます。

【フルパワー化の方法】

当時輸入・販売していたレッドバロン発信のフルパワー仕様・キャブレター・セッティングはJN(ジェットニードル)段数4段目。メインジェット250番。パイロットジェット25番。~と言うもの。

このキャブセッティングの他、リミッターカット、YPVSの調整、マフラー側エキストラクターの除去。これらを行う事で初めてフルパワーになります。

【フルパワー化の試み】

  1. キャブレターの仕様変更
  2. マフラー側エキストラクター(遮蔽パイプ)の除去
  3. YPVSの調整
  4. リミッターカット

これら4点の調整を行い症状改善の検証を進めます

【各部の点検・確認作業】

作業を進める前の大事な事は、現在の状態がどのようになっているかをまず把握する事。


・キャブレター

ジェットニードル・クリップ位置: 上から数えて4段目(標準2段目)
メインジェット        : 270番(標準番手)
パイロットジェット      :  25番(標準20番)

・マフラー内部

エキストラクター(遮蔽部品)は無し

・YPVS

標準位置での設定

・リミッターカット

リミッターカットされておらず

~~~以上の様に分解点検してみると、キャブレターセッティングとマフラーのみフルパワー仕様となっている状態でした。

フルパワー化の実践

【キャブレター】

***現状フルパワー仕様となっていますのでこのまま他の部分の調整に入ります。

  • ジェットニードル・クリップ位置: 標準2段目→4段目に変更
  • メインジェット        : 標準270番固定
  • パイロットジェット      : 標準20番→25番
  • エアスクリュー開度      : 標準1回転・1/2戻し→都度調整

クリップ段数を2段目から4段目に変更。これはクリップの位置を表していて5段階に調整出来る様になっていますので、上から数えて4段目に変更します。
メインジェットは『270番』、パイロットジェットは20番(標準)を『25番』に変更。

【エアスクリューの調整】

既存のままですと調整出来ない様に樹脂キャップが埋め込まれています。
これでは調整不能ですのでこのキャップを取り外して調整出来る様にしてあげます。


 

 

バーナーで熱した小型のマイナスドライバーを押し込んで引き抜けばあっさりと抜き出す事が出来ます。
バーナーを使わずとも半田ごてで溶かしても良いでしょう。


 

 

 

こうしてエアスクリュー(パイロットスクリューとも呼称)が見える様になりました。

~~~調整してみると、この入庫車両では『3回転戻し』で調子が上がってきました。
ヤマハのオートバイは50ccから400cc位まで、1980年代から1990年代の車両の大半は『2回転~2回転半』で合う物が多かったので開き過ぎと言う事はありません。

エアスクリューは取り出してみるとこの様になっています。
各部品の順番を間違えない様に画像を参考にして下さい。


【キャブレター分解時の注意点】

~~~ジェットニードル・クリップの脱着はプライヤー等は使わずに硬い樹脂ブロックにあてて行います。工具を使うとどうしてもニードルとクリップの双方に傷が付き易く、上手に外さないとクリップが広がってしまいニードルが暴れて不調の原因にも繋がってしまいます。画像では解り易く見せていますが、実際にはクリップが飛んで無くなってしまわない様に上から指を添えて行います。


 

 

~~~フロートバルブピンは支柱の高い方から挿入します。
短い支柱の穴がきつくなっており、それでピンが抜けない構造になっています。間違えて短い方から差し込むと最初からきついので最後まで押し込む事は困難です。
ピンを抜くには『ピンポンチ』があると作業効率が上がります。


 

 

~~~フロートチャンバーのドレンボルトは固着して緩め難くなりますので、一度外して「スレッドコンパウンド」を塗布しておくと次回緩める時の作業が容易です。
ボルトヘッドが「+」ですのでなめやすいので、ドライバーもしっかりした製品を使うとボルトの損傷が回避出来、取り外しが確実に行えます。

 

ピンポンチは「シグネット」製品が使い易く価格もお手頃です。

 


【マフラー】

***チャンバー部分を取り外してみると既に除去してあるのかエキストラクターはありませんでした。

【マフラー内部】

パワーを抑えるのに本来ならば筒状の遮蔽版がエキゾーストパイプ内に溶接されているのですが、この車両にはそれがありませんでした。
このエキストラクターはヤマハ特有で、古くは「RZV500」の国内仕様等に装備されていた物でした。

殆どは「点付け」ですのでリューターで削るだけで取り外しは可能です。

~~~チャンバー部分はサイレンサーを取らずに取り外しが可能で、更には各カバー類も外さないで作業が出来ます。チャンバー部は3カ所で固定されており、前方と中央の2カ所ボルトを取り、サイレンサー側のボルトは台形の穴から工具が挿し込めますので整備性良好です。

サイレンサー側ボルトは熱で錆びていますので浸透性の高い潤滑剤をスプレーしてしばらく置いておき、浸透した頃合いを見計らって緩めるのが良いでしょう。
1本あるとマフラー以外にも使えて便利なスレッドコンパウンド。ワコーズ製品が定番です。

【YPVS】

***YPVSを調整してバルブが全開に開く様に調整します。

【YPVSの調整方法 ~フルパワー化用】

メインスイッチをONにするとYPVSが作動し、切り欠き部分が丸い印の所・全開位置で止まります。しかし実際にエンジンをかけて回転数を開けて行ってもこの丸い印まで切り欠き部分は到達せず、高回転でYPVSのバルブが全開になっていない事が分かります。


 

 

これがアイドリング状態のバルブ位置です。
ここからアクセルを開け回転が上昇すると反時計回りにバルブが動いて全開位置まで開く筈なのですが、実際には画像の3時方向位置から丸印までの半分までの距離しか移動せず全開にはなっていません。

この状態では抜けは悪く、高回転まで回らなくなりそうです。通常の調整方法とは違ってきますが、本来の性能を引き出す為の調整を行います。


【YPVSの調整方法】

『~~~調整前・プーリー1』

『~~~調整後・プーリー1』


 

『~~~調整前・ワイヤー部』

 

『~~~調整後・ワイヤー部』

~~~調整ボルト長さが左右で大きく異なりますが、これでアクセルを開けた時・高回転時にYPVSのバルブも追従して全開になります。
調整の方法としては①側ワイヤーを緩めて②側ワイヤーを引っ張ると言うものです(②ばかり引っ張っても①を緩めないとプーリー・バルブは回転しませんので注意)。
メインスイッチをONにしたリセット時に、プーリーの切り欠きが1時の方向に向いた所(奥の丸印に合った位置)が全開位置となっています。
高回転時にこの位置までプーリーが移動する様にワイヤーで引っ張って調整しています。車両の個体差はあると思いますが、概ねこの位置で全開になる筈です。

エキストラクター確認でマフラーを外した時に排気ポートを覗いて確認・調整すると分かり易いです。

【リミッターカット】

***「CDI」から出ている配線を1本ボディアースさせるだけの簡単な手法です。

【CDIからの配線を確認】

~~~フューエルタンクを外すと前方に位置する黒い箱が「CDI」です。

CDIから出ている「4Pカプラー」。
この4本の内、黒/青の線はメイン側ハーネスに繋がっていません。これをボディアースさせるだけでリミッターが解除されます(これが全てでない車体も有ります)。

画像左がCDI側で、右画像がメインハーネス側です。黒/青線はここで途切れている状態ですので、この空いているカプラー穴に細工をしてボディアースへと繋げてリミッターを解除します。

この様な配線を作ってメインハーネス側・カプラーに取り付け。反対側はYPVSのサーボモーターを固定しているボルトと共締めとしました(テスターにて導通チェック済)。

 

~~~ギボシ端子については私の場合、面倒でも必ずハンダを流して補強を含めた導通を確保しています。

 

車体のどこに接地しても良いのですが、希望の所に必ずテスターをあてて導通の確認をして繋ぐ事。


リミッターカット処置後の調子は・・・?

ここまで作業してきましたがそれでも「7000回転」で頭打ちの状態です。
こうなるとリミッター云々ではなくキャブレターセットに原因がある様に思えてなりません。

この後はキャブレターのセットアップ・セッティングを考察しています。

【様々な調整での効果】

YPVSの調整で5000回転頭打ちが7000回転まで上がる様にはなりましたが、まだまだ全体的にパワー不足な状態です。

(入庫時)
1速: 5000回転 頭打ち
2速: 5500回転
3速: 6000回転(キャブレターOH後)
1速: 5500回転
2速: 6000回転
3速: 6500回転(リミッターカット後)
1速: 7000回転 ~30km弱
2速: 7000回転 ~40km
3速: 7000回転 ~55km(YPVS調整後)
7000回転まで回るのは変わりませんが、半クラを使わないでもパワーが伝達出来るようになりました。

【キャブレターのセットアップ】

キャブレターは「TM28SS」が標準装備です。 『  』が変更点です。

(入庫時のセッティング)
メインジェット     : #270
パイロット       : #25
エアスクリュー(AS) : 1-1/2回転戻し
ジェットニードル(JN): クリップ段数4段目~~~7000回転までスムーズではあるがシフトダウンのブリッピングで回転がついてこない。


ここからセッティングの開始です。

メインジェット     : #290
パイロット       : #25
エアスクリュー(AS) : 3回転戻し
ジェットニードル(JN): クリップ段数4段目
~~~全体的に吹けが悪い。回転数は7000回転のまま変わらず。


メインジェット     : #250
パイロット       : #25
エアスクリュー(AS) : 3回転戻し
ジェットニードル(JN): クリップ段数4段目

1速: 40km弱
2速: 50km
3速: 70km
4速: 80km
8500~9000回転まで回る様になり、上記スピード時は8000~8500回転。


メインジェット     : #240
パイロット       : #25
エアスクリュー(AS) : 3回転戻し
ジェットニードル(JN): クリップ段数4段目
~~~2速までは9000回転まで上昇。全体的に薄く感じアクセルが重くも感じられる。
4000~5000回転で谷(これは他の番手でも発生)。


メインジェット     : #260
パイロット       : #25
エアスクリュー(AS) : 3回転戻し
ジェットニードル(JN): クリップ段数4段目
~~~7000回転で頭打ち。6000回転までスムーズさに欠け不安定でパワーも落ち気味。


メインジェット     : #250
パイロット       : #25
エアスクリュー(AS) : 3回転戻し
ジェットニードル(JN): クリップ段数2段目

1速: 40km以上
2速: 60km弱
3速: 70km以上
4速: 90km弱(8000~8500回転)
~~~谷が無くなりスムーズに・パワフルに8000回転まで上昇。


メインジェット     : #250
パイロット       : #25
エアスクリュー(AS) : 3回転戻し
ジェットニードル(JN): クリップ段数1段目

1速: 40km以上 (8500回転まで)
2速: 60km以上 (9000回転まで)
3速: 70km以上 (9000回転まで)
4速: 90km以上 (8500~9000回転)
~~~更にスムーズ・パワフルになって9000回転まで上昇。

ここまでセットアップしての検証結果として、メインジェットを小さくして調子が上がっているので「ジェットニードル・ホルダー」、この部品はメインジェットの付くパイプですがこれが消耗して燃料が濃い状態になっているのが原因と考えられます。今後入手可能であれば純正部品で内部パーツを一通り新しくして再セッティングする方が良いかも知れません。
さらに重要な事は「リミッターカット」ですが、CDI配線のアースだけでは不十分と思います。
余力はあるのに最後まで回りきらないのは機械的ではなく電気的な作用があると乗っていて感じました。資料が不十分ですがタコメーター側での制御を解除しないとならない物もある様子です。
イグニッションコイルの不調やCDI自体の不具合も考えられますのでひとつづづ解決していかないとなりませんが、とりあえずは普通に乗れるレベルまでセットアップは完了しました。
リミッターカットの方法やキャブレターのセットアップの参考になれば幸いです。