650RS/W3 ~音が出ない・W3純正デュアルホーンの修理方法を解説

W3
W3・純正デュアルホーンを分解・修理する方法を解説

 

W3のデュアルホーンを分解・修理

劣化したホーンが鳴らなくなることは多くありますが、幸いにもW3の純正ホーンは分解が可能です。
ここではホーンを分解し調整まで行って音を鳴らすまでを解説しています。


 

W3のデュアルホーン~ダブルのダブルホーン

ホンダのCB750Fの様に「ハイ」と「ロー」には分かれていませんが、
やはりW・ダブルの名の通りにホーンもダブルで鳴ると、音の響きも美しく迫力があります。

 

既に周知されているメーカーコメント。当時Z2のブレーキはシングルだったのに対して
W3がダブルディスクなのは「W」の名称に合わせたと言うトリビア。
このホーンが二つなのも「W」を表現する方法のひとつかもしれません・・・。

 


 

ホーンの分解

ホーンは中心の袋ナット1個と、外側のリングにある「+」ビス・5本を外すと分解できます。
→その前段階でホーン本体とステーを分離しておきます。

純正部品でも販売されていた後期タイプは、外リングが「+」ビスではなくリベット・カシメ固定です。ですがこのアルミリベットを削り落とすと本体側にはメネジが切られているので、分解・整備後に「+」ビスで外リングが取り付け可能です。

    【分解した様子】

本体側に薄い紙パッキンがあるのが確認できます。後述しますがこの紙パッキンが曲者で、素材と厚みで音の調整となります。
画像内・真ん中が「振動プレート」です。
そして、外リング裏に極薄スポンジ系パッキンが入っています。


 

 

 

本体からステーも取り外します。
組付け時に順序が分かるように写真に収めておくと良いでしょう。


 

    【音の出る仕組み】

本体側には「コイル」があり(右画像)、ホーンボタンを押すと電気が流れ電磁石となって
中間にある「振動プレート」が引き寄せられて振動・響いて音になる構造です。

 

 

黄色線と黒線~黄色線と茶線。各間で導通があることを確認してからの作業となります。
コイルが断線している場合には修理不能です(出来ないことはありませんが大がかり)。

 


ホーンの修理・整備方法

特に難しくはありませんが、最後の音を出す過程では工夫が必要になります。


    【配線交換と接点】

まずは茶と黒の配線、ハンダを溶かして線を抜きます。
黄色線は接点とコイル間の線ですので、ここは触れません。


 

 

外部から茶・黒線を固定する樹脂部品とパッキンは洗浄して再使用となります。
今回レストア依頼の為、本体はブラスト処理の後に2液ウレタンでリペイントします。


 

 

リペイント後に配線を入れ替えた状態です。
ここは細い線が巻き付いてハンダ付けされていますので、ハンダ吸取り線があると便利です。

 

外側で配線を固定する、小さな樹脂プレートはバーナーで軽くあぶると表面が溶け、
黒さが戻ります。

 


 

 

端子部分ですがここは純正に準せず、平型・オス端子には「分離型用スリーブ」を、
平型・メス端子には平型標準のスリーブを取り付けます。
こうする事によって金属部分が外に出ず、見栄えも良く車体側への短絡防止にもなります。
(分離型スリーブは「ダブルギボシスリーブ」とも呼称します)


 

 

接点部分はポイント・コンタクトブレーカー同様に、1000番程度の耐水ペーパーで軽く磨きます。二つ折りにしたペーパーを挟んで引っ張る作業を数回繰り返して完了です。
完全に閉じた状態ですと挟む力が強くペーパーは切れてしまいますので、接点を軽く広げてあげるとスムーズに行えます。

 


 

ホーンを鳴らす~音の発生方法

W3の純正ホーンはデフォルトで紙パッキンが組み込まれています。
ですが劣化していることが殆どで、分解した時点でほぼ再使用不可の状態になります。

外リング側には薄いスポンジ状シート、本体側に紙パッキンが標準です。

このパッキンが入らないと振動プレートが震えず音が出ません。
かと言って薄いガスケットシートで良いかと言うとそうではなく、
試験的に組み付けてみたところやはり音は出ません。
パッキンのみが原因ではなく、電磁石も弱っていたり振動プレートが僅かに変形していたりと
複合的なことで音の出が弱かったり出なかったりするのだ考えます。
出来ることはパッキンでの調整のみしかありませんので、材質・厚み(枚数で調整)を
上手く組み合わせて修理・整備を進めていきます。
色々と試してみたところ外リングを固定すると音は出ませんが、少し緩めると鳴ることに気づき、
「クッション性のあるパッキンを使用すれば良いのでは?」
と言う結論に達しました。

試験結果より、柔軟性のあるシリコン樹脂含有のガスケットシートを使って調整します。

 


 

ホーンを鳴らす~ガスケットシートの作成

ここで使用するガスケットシートは、固形と液体の長所を持ち合わせた特殊なものです。
インターネット上でも各種販売されていますので参考にしてください。

厚みは「0.6mm」と「1.0mm」を用意し、この組み合わせで調整します。

この二種で、0.6/1.0/1.2/1.6/2.0/2.2/2.6mm・・・、
~と様々に組み合わせが出来ますが、実際には0.6~1.6mmあたりで落ち着くはずです。

 

    【パッキンの作り方】

振動プレートを型紙にして丸く切り出します。
それを外リングに嵌め、ボルト穴と共に印をつけていきます。

 

まず先に、ボルト穴を4mmドリルにて穴あけします。
画像内ではボール盤を使っていますが、ハンド・ドリルでも充分穴あけ可能です。

その後に紙パッキンに出た「バリ」をカッターで切り落とし、中央を丸く切り取ります。

 


 

 

中をくり抜いてパッキンの完成です。
この後に控えている「音調整」様に、
0.6mmと1.0mmシートを2枚づつ作っておきます。

 

   大判のカッティングボードがあると様々な場面で活躍します

 


 

ホーンを鳴らす~音の発生調整

紙パッキンは中間プレートの前後に入ります。
純正品では各1枚づつですが、同じ配置にしても製作品では音が出ません(個体差有り)。
しかし取り付けビスを緩めると音は出ますので、パッキンの厚みで調整が可能な事と判断できます。


    【パッキンの厚み・枚数で調整】

0.6mmと1.0mm、幾つかの組み合わせでようやく音が綺麗に発することが出来ました。
デュアルホーンなので二つありますが、この二つ共に同じ組み合わせで鳴りましたので、もしかしたら同じ仕様で他の個体も整備可能かもしれません。

1.0mmを1枚よりも0.6mmを重ねた1.2mmの方がクッション性があるのか、
音が出やすい傾向にありました。
今回の検証結果としましては、中間プレートを中心に、本体側は「0.6mm+1.0mm」
外リング側が「0.6mm」~の計3枚で車検に通るレベルの音量になりました。

今回は0.6mmを中心にしましたが、0.3mmを使った組み合わせの方がより一層
綺麗な音が出るかもしれません。

 


 

ホーンを鳴らす~最終調整

音は出ても音色に満足できないこともあると思います。
その時は外リングのビスを僅かに緩めにして、音の良いところで固定します。


    【各部の緩み止め処置】

 

ネジはステンレス製を使っています。
中強度のネジロック剤を塗布して組み込み。


 

 

 

裏側に飛び出たM4ビス先端部、そして音量調整用のナット部分に液体ガスケットを塗って緩み止めとします。


 

 

以上の過程で完成となります。

再メッキとリペイントによって綺麗な仕上がりです。

 


袋ナットとM4ビスをステンレス製にして、これをバフ仕上げにしますと更に美しくなります。
画像はW3のホーンを他車種に流用のもので、
ワッシャー側面からネジの裏側まで磨いてあります。

 

   ネジロック剤は少量タイプもあります