旧車整備の基本②~燃料タンクの錆落としとコーティングの実践

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旧車整備 燃料タンクの錆取りとコーティング
旧車整備で行う燃料タンクの錆落としとコーティングの方法を解説

旧車のメンテナンス時に必ずと言っても良い程行うメニューにフューエルタンク・コーティングがあります。これは内部の錆落としが大前提の整備・修理ですが、錆落とし~コーティングまでその一部始終を解説していきます。

解説には錆取り剤とコーティング剤はどちらも『WAKO’S製品』を使っています

【詳細はこちら~今回使用のケミカル】


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フューエルタンク内の錆落とし

キャップを開けて綺麗に見えても10年も経過しますと底面部では必ず錆が発生しています。
タンク成型時、上下パーツを合わせるにあたって溶接接合をします。熱がかかったこの合わせ部分はこの時点で焼けてしまっています。焼けた鉄は熱が加えられた時から腐食が進行していきます。
メーカーでは成型後に亜鉛皮膜処理をしていますが、腐食しやすい部分に変わりはありません。
常に燃料満タンを心掛けていても季節によって「結露」もしますので、その水分で錆は促進されて底面の縁部分は錆が出てくると言うメカニズムです。

錆落としはワコーズの「ピカタンZ」を使って作業を進めます

 

錆取り剤注入前の処理・燃料抜き出しの後の乾燥は天気の良い日に風通しの良い所に置いておく「天日干し」で可能です。
数日間で乾燥出来ますが火気に注意して後述の錆取り後の乾燥方法と同様の作業方法でも行えます

頑固な錆には初めに原液で2~3時間程浸け置きし、その後「お湯(熱湯で可)」を注いで丸一日放置すると綺麗に錆が落とせます。
錆落としの場合はコックを外して燃料を抜いて良く乾燥させた後に、再度フューエルコックを取り付けて錆取り剤を注入します。鉄錆にのみ反応する液体ですのでその他の部分を腐食する事は有りませんので安心です。



 

錆取り剤を抜いたら水道水で十分にすすいで内部洗浄を行います。すすぐと同時に中に残った細かい錆も放出されます。
理想は高圧洗浄機での内部洗浄ですが、持っていない方が多いと思います。
ホース先端にジェットノズル装備でも十分に落とせる程に錆取り剤で錆びは浮いていますのでその辺は安心です。

(注)~~~画像でのタンク下には専用の木の台を敷いて作業しています

ここでの解説は取説とは違います。
・・・ですが数多くの施工経験からの作業方法ですのでより実践的です。

タンクの乾燥 ~内部に残った水分を飛ばす

コンプレッサーがあればエアブローで水分を吹き飛ばしてからドライヤー若しくはヒートガンで中を乾燥させます。販売店であれば可能ですがDIYの場合はエアを使う事は難しいのでここで提案。
よく振ってコック部分から粗方の水分を抜いた後、タンクを逆さまにして20分程置いておきます。こうする事によってタンクキャップ周辺に余分な水分が集められます。ここにキッチン用品のキッチンペーパー(キッチンタオル)をあてて水分を吸い取っていきます。これを繰り返していよいよ吸い取れなくなったらドライヤーやヒートガンで内部乾燥を行います。タンクが入る程の大きな段ボール箱を用意出来ればそこにドライヤー噴き出し口に合わせた穴を開けて、その中にタンクをセットして穴から温風を送り乾燥させます(送風穴と反対方向に風の逃げる直径3cm程の穴を開けておくか、箱を密閉させずにおくと送風の逃げ道になります)。そうして最後の仕上げに天気の良い日に日光を当てて完全に乾燥させて下処理は完了です。

~~~高温で箱が燃えてしまわない様にドライヤー送風口は耐熱テープで補強します

大きな段ボール箱が用意出来ない場合、給油口にドライヤーを固定して内部乾燥を行います。
水分が残っていると後のコーティング作業に支障が出てきますので、時間は掛かりますがしっかりと乾かします。

タンクコーティング剤の注入

 

コーティング剤は沈殿して底部で固まっているのが通常です。細いマイナスドライバーを使って塊が無くなるまで混ぜていきます。少しでも粒が残っていると硬化剤と交わらず、加熱乾燥をしてもとそこだけ液体のままで乾燥はしません

時間は掛かりますが良く撹拌して下さい。

大粒の塊が底に溜まっています

コーティング剤を作る前にフューエルコック部分をマスキングテープやアルミテープで塞ぎます。
燃料ゲージがある物はそこも同じようにテープで塞いでおきます。

コックの取り付け方法がボルトの場合はそのままテープで塞ぎ、硬化後にタップでネジ穴に残ったコーティング剤を落とします。
Z1/Z2などに見られるねじ込み式は穴に合わせた「栓」をすれば良いでしょう。

ワコーズのコーティング剤は主剤と硬化剤を混ぜ合わせる2液タイプです。
余分な所に付着させるとエポキシ系樹脂ですのでウレタンシンナーでないと溶けませんので要注意。
とりあえずはパーツクリーナーを用意しておいてこれで拭き取る様にします。

コーティング剤は3~5分しっかりと撹拌・混ぜ合わせます
『主剤8:硬化剤2』の割合で混ぜ合わせます。
付属の容器にある目盛りは見え難いのと合わせて正確な量が量れません。ここでは専用品・デジタル重量計を使って「重さ」として主剤・硬化剤の各々を計量して混ぜ合わせています。

 

硬化剤の「30ml」30mlを計量中。

撹拌が不十分ですとちゃんと硬化しなかったりしますのでマイナスドライバー等でしっかりと混ぜ合わせます。撹拌後10分もすると硬化が始まりますのでここからは手早く注入・タンク回転を行い満遍なくコーティング剤を隅々まで行き渡らせます。回転させる場合はゆっくりとコーティング剤の流れるスピードに合わせるのが基本です。

  • タンクを逆さまにして1分程おき、一瞬でひっくり返す。
  • タンク側面にコーティング剤を集めて横回転。
  • 同じ要領でタンク側面から縦回転。

塗り残しの無い様にこの一連の作業を数回繰り返します。

Z系,W系,CBなど旧車のタンク形状は現行車の様に複雑ではありませんので作業は容易です

CB750のタンクは洗浄に於いては水分が抜けにくい形状をしていますので注意が必要です

不要なタンクコーティング剤の抜き出し

最後は内部に残ったコーティング剤の抜き出しです。
タンクを逆さまにして付属のシリンジにホースを付けて吸い出します。
コック穴や燃料センサー穴からコーティング剤の溜まっている部分へホースを挿入して吸い込み、
粗方抜けたらタンクを元の正常位置に戻します。

抜き出したコーティング剤を使って給油口付近のコーティングを行います。細めのマイナスドライバーを使って給油口直下の「筒」まで綺麗に塗ったら、仕上げに給油口の「縁」にコーティング剤を塗って塗布完了です。


タンクの乾燥 ~コーティング剤を硬化させる

硬化剤を使った2液製品ですので数日間の「天日干し」の自然乾燥でも大丈夫ですが、梅雨時期や気温の低い冬場に於いては前出の段ボール箱を使った「加熱乾燥」が推奨されます。箱内・タンクの温度が70℃~80℃に上がった状態から30分程で完全硬化します。

  【天日による自然乾燥】

 【段ボール箱を使った温風乾燥】

最後の仕上げにネジ穴の修正と合わせ面をオイルストーンで平らに均して完成です(Z750FX/Z1000Mk2,Z1000J/R,CB750~現行車両)。

ネジ山の修正にタップを使った後、エアブローにて内部に落ちたカスを取り除きます


タンクキャップ側も分解してコーティングするとパーフェクトです

取り付けビスとワッシャーは錆とは無縁のステンレス製の物に交換しています。

キャップラバーも同様に新品に交換して全ての作業が完了です。

参考~Z1/Z2用キャップ


コーティング剤の2回塗り ~加熱乾燥時の注意点

穴が開きそうだったり穴が開いてしまったタンクのケースは特にこのコーティングを2回行う事が推奨されます。ワコーズ・タンクライナー1セットで2回分の分量になっていますので新品若しくは新品に近い状態でない物は2回の施工をお勧めします。

2度の施工に於いて注意すべき点は1回目から2回目までの作業間隔を空けない事が重要

施工数年後、転倒によりタンクに凹み。板金塗装後に再度のコーティング施工。加熱乾燥により第一階層からの「膨れ」を確認。

取説には2回コーティングが推奨されていますがその間隔の期限までは記載がありません。
「加熱乾燥」を行う場合は、経験上2回目コーティングは少なくとも1回目施工後1週間以内を期限とするのが望ましいです。

期間が開いてしまった場合は必ず天日にあてて乾かす「自然乾燥」での作業にします

乾燥方法問わず1回目完了後、常温に戻った段階ですぐに2回目の実施が理想

現行車両におけるコーティング作業での注意点 ~エア抜き穴の確保

現行車両の殆どは給油口サイドに「エア抜き穴」が開いています

このエア抜き穴がコーティング剤で埋まってしまうと給油時にタンク内の空気層の逃げ場が無くなり、吹きこぼれてしまう恐れがありますので要注意!
硬化してしまった後での貫通は非常に大変なのでコーティングを終えたら硬化前に貫通させておきます。

ホンダとヤマハは小さな「穴タイプ」、カワサキはいわゆる「隙間タイプ」です

穴タイプは千枚通しや針金を通してあげるだけで良いので簡単です。
隙間タイプはステンレスワイヤー(0.5mm)をUの字に曲げてコーティング剤を掻き出します。
コツはコーティング完了後(硬化前)10分程おいておき、十分コーティング剤が下がった状態で掻き出す事。そうしないとせっかく隙間を作っても時間の経過と共にコーティング剤が流れ落ちてきて再度埋まってしまう事になります。

穴も隙間も給油口裏側に位置しているのでコーティング前にミラーで確認しておく事