W1S,W1SA,650RS/W3 ~傷んだキャブレターのオーバーホール①

W3
Wのキャブレターをオーバーホール
650RS/W3のキャブレターを題材に腐食したキャブのOHを解説

 室内保管の車両でも数年動かさないと・・・。

室内保管の良い所は車体・外装の傷みが少ない事。しかし燃料は腐食し易いのが難点です。
ボディカバーを使った外保管ですとその逆でキャブのガソリンは気化し易いので傷みにくく、カバーをかけていても車体は錆びやすく埃も付着します。

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腐食したキャブレター内部

3年室内保管されていたW3のキャブレターを分解整備します

燃料タンクのキャップを開けると傷んだガソリン特有の刺激臭がします。
燃料コックを開くとフロートバルブが固着している様子でオーバーフローしてきます。
キャブレターを取り外し、フロートチャンバーを開けると・・・。

【キャブレターの傷んだ状態】 ~~~ガソリンが腐食し固形化しています

 

キャブレタークリーナーよりもエンジンコンディショナーの方がキャブを傷めず固形化した燃料を溶かす作用が大きくお勧めです

 


キャブレターの洗浄方法を解説

W以外でも行っている通常作業風景です
分かり易い様に画像を多めに載せて説明しています。
傷んだ燃料は手に付着すると臭いがなかなか取れませんので作業用ゴムグローブが必要です。
キャブクリーナーは刺激臭が強いのでマスク着用も忘れずに。


腐食キャブレターを分解・洗浄する工具類一式

傷んだキャブレターの分解と洗浄にはこれだけの道具を使います。
スパナ、メガネレンチ、マイナスドライバー、ラジオペンチ。
ジェットの穴を通す極細ピアノ線とパイプ内を洗浄用のスプレーノズル。その他洗浄に使う「歯ブラシ」(数種有り)。

 


 

固着したピンを専用ポンチで押し出します。
強く叩くと支柱が折れる可能性も出てきますので加減して。よほど酷い固着状態の場合は先にキャブクリーナーを使い溶かしてから作業を行います。

9mmのメガネレンチでフロートバルブを外します。緩んだ時に支柱にダメージを与えない様に気を付けて。ここでは画像で分かり易い様にメガネレンチを使用していますが実際の作業には9mmソケット(ディープ型)を使うのが安全で良いでしょう。

***押し引きの前にまず回転させる***
フロートバルブとバルブシートが固着している場合は小さい容器に入れてキャブクリーナーに浸け置きして溶かします(状況によって何度か行います)。バルブトップの上下する部分もこれで大体は溶けて動く様になりますが、強く押す前にまず回転させるのがコツです。これはバルブとバルブシートの固着を外すのにも有効な手段です。


 

6mmと8mmのスパナでメインジェットとホルダーを外します。
まずはメインジェットから緩めて次にホルダーの順序にて行います。

スロージェット・パイロットジェットはなるべくピッタリ合うサイズのマイナスドライバーを使って外します。奥まった所に入っていますのでこの穴の内径に合うサイズで(穴径5.3mm、ドライバー幅5.2mm)。

使用工具画像内の極小ピアノ線を使ってチョークパイプ(W3のみ)の詰まりを修正します。
キャブクリーナー注入後に挿し込んでクリーナー液を潤滑させる要領です。この作業を怠るとチョークが効かずエンジンが掛かり難い等の症状が出ますので要注意。

***ピアノ線とスプレーノズル***
使用しているピアノ線、実はワイヤーブラシの「毛部分」なのです。
ワイヤーブラシからプライヤーで引き抜いて使っています。丈夫で線径もかなり細いので重宝します。とにかく細いのでスロージェットの貫通に使用しても差し支えなく、番手で言うとミクニ12.5番でも十分な隙間がある程です。
スプレーノズルも物によって極細の物がありますのでこれも便利な工具に早変わりします。
これはメインジェットの溝掃除だったり、様々なパイプ内壁の洗浄にも役立っています。

固形化したガソリンの除去にはキャブクリーナーと併用してこれらの道具を駆使して作業しています

 


 

 

エアスクリューも外してキャブクリーナーを注入し、内部通路の洗浄を行います。

キャブレターに開いた数々の穴・通路全てに空気を注入し、目に見える部分の汚れはマイナスドライバーでそぎ落とします。歯ブラシも数種類の形状・大きさを揃えて形状に合わせた物を使って磨く様に汚れを落としていきます。

***ZとWのキャブレター素材は一世代前の腐食し易い鋳物***
本当はキャブクリーナーは使いたくないのですが・・・。
クリーナーによって内部通路は溶け、拡大された通路によりシリンダーに送り出される燃料は増え不完全燃焼の原因にもなります。ニードルホルダーもしかりで、ここが広くなると同じようにガスが濃い状態となり調子は崩れます。
しっかりと洗浄したその後はガソリンを傷ませない様に乗車機会を増やしたり、長期乗らない場合はフロートチャンバーを外して内部ガソリンを抜く作業が必要です。


 

洗浄が終わり組み立てに入るところです。フローチャンバー内は洗浄後にブラスト加工で綺麗にする事もあります。溜まっていた水分で錆び、虫食いがあった場合などはチョーク部分のマスキングを行い(W3のみ)アルミナを当てて腐食部分を取り除きます。

こうして作業が完了したキャブレターは見違える様に綺麗な状態になります。
この後きっちりと左右の連携「同調」を合わせてエアスクリュー調整をして作業完了となります。


その他、ガソリンが傷むと腐食してしまう部分を解説

燃料・ガソリンが傷むとそれが原因で腐食する部分があります

ガソリンの傷み=車体の傷み・・・、へと繋がりますので悪くならないようにご注意を。
乗る頻度が少ない場合は乗車後燃料コックをオフにした状態でアイドリングさせ、回転が落ち込んできたら軽くアクセルを煽ってエンジンが止まるまでシリンダーへ燃料を送り込みます。
こうする事によってフローチャンバー内に残るガソリンを極力減らし、傷む量を限りなく「0」に近づけます。


例え新品であったとしても3年放置された車両のフロートは真鍮製の特性もあり、湿気と合わさりすぐに腐食が進行して穴が開いて中に燃料が溜まってしまいます。こうなるとフロートは油面が上がらず、オーバーフローしてしまいます。

元は新品でしたが3年も放置されると水分で腐食、薄い真鍮は穴が開いてしまう程脆く修理不能となります。
実際には修理しますがハンダで重量が増えるので上りが悪くなります。それを考えると新品に交換する事を推奨します。

修理の場合は中に溜まったガソリンを抜き出す必要があります
ドライヤーやヒートガンを使って熱してあげると開いた穴から熱膨張したガソリンが吹き出てきます。燃料除去に加えて穴の場所も全て特定出来るので一石二鳥となります。

400番程度のサンドペーパーで表面を研磨した後にパーツクリーナーで脱脂。そしてハンダにて穴を埋めます。全体を暖め過ぎると余計な部分のハンダが溶け、修正が困難になりますのでフロートの温め過ぎには注意が必要です。

純正部品で未だ販売中ですのでここはしっかりと信頼性の高いカワサキ純正部品を使いましょう

【フロート】
純正部品番号 : 16031-011 ~税別3760円(2019年11月現在)

半年前はビニール袋のみの梱包でしたが現在は従来通り箱に入っています