Z1/Z2,650RS/W3のフロントフォークのオーバーホール・インナーチューブ交換とアッシュのフォークオイル~オイル変更だけの簡単サスチューニング

W3
Z1/Z2,W3 ~フォークOHとアッシュのフォークオイル
Z1/Z2~W3 のインナーチューブ交換 ~フロントフォークのオーバーホール

Z1/Z2,W3共通の作業内容です

整備サンプルを「W3」にて解説しています。
オイルシールプーラーがあると作業性が向上しますので揃えておくと有利です。

 


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インナーチューブ交換

インナーチューブの分解

旧車のフォークは部品点数が少なく簡素な構造

現行車と比べると殆どダンパーの役割をしていないかの様な簡単な造りです。
ブッシュとスライドメタルがありませんので、ボトムケースとインナーチューブのクリアランスを狭く取った設計です。これではオイルシールで支えている事になりますのでオイルも漏れ易くなります。

 

インナーパーツは点数的に現在の物と変わりはありませんが、ブッシュとスライドメタルは装備されていません。

 

分解時にフォークシリンダー・ロッド先端部のキャップが抜けにくい時があります。これはアルミで造られたパイプが潰れて太ってしまい、キャップが外れなくなっているのです。パイプ横に開いた穴の径に合わせた太さのシャフト、若しくはドライバーを突っ込み、キャップはパイプ用プライヤーで挟んで回転させて取り外します。
外したら耐水ペーパー600番程度で先端部を修正します。

 

フォークピストンの入れ換え

インナーチューブ先端部の「リリーフバルブ」

インナー交換時はこの先端部にある部品を忘れずに入れ換えます。
一般に「リリーフバルブ」と呼称していますが正式名称は「フォークピストン」です。
当然の事ながら、取り付けないとフォークシリンダー・ピストンロッドが中で固定されず抜けてしまいます。

 

リリーフバルブは細かい部品で構成されており、順番と共に表裏がありますので間違えない様に外した時にチェックしておきます。

フォークピストンの入れ換え ~分解と組み付け順序

取り出してみると多くの部品点数

数々の構成部品で成り立っている事が分かります。

 

画像右端のクリップ側がフォーク先端部・実際にはフォーク下側になる向きです。

オイル通路のプレートが2枚、ウェーブワッシャー1枚、つば付きスリーブが1個、ピストン1個で構成されています。


【インナーチューブへの組み付け順序の解説】

        【表側】

       【裏側】

一番奥に入るのがこのバルブです。表側を上向きにしてインナーへ組み込みます。


 

 

 

ウェーブワッシャーを置きます。


 

 

 

そこにつば付きのスリーブを載せます。


 

 

 

オイルピースがここに載ります。
この部品に表裏はありません。


 

 

ここにフォークピストンが載り、最後にクリップで固定となります。
フォークピストンには上下があり、角が立っている方がクリップ側、オイルピース側はテーパーになっている向きが正解です。
(画像の上部がクリップ側です)

Z1/Z2も基本は同じで、ウェーブワッシャーの代わりにスプリングになっています。

インナーチューブの組み立て

旧車も現行車も変わらない構造

カートリッジタイプでない限りは殆ど変わりのない構成です。
前述していますがスライドメタルとブッシュが装備されていないだけです。

画像からフォークシリンダーとスプリング、スリーブのほぼ3点構造なのが分かります。

 

スプリング(小)にフォークシリンダーを通しインナーチューブへと挿入します。


 

 

 

フォークスプリングを入れ、スプリングトップにつば付きのワッシャーを被せます。
(ワッシャーは凸が下向きです)
このワッシャーはZ1/Z2にはありません。


 

 

 

スリーブを取り付け。
(Z1/Z2にスリーブはありません)


 

 

 

Oリングを通したフォークキャップ・ボルトを取り付けます。


 

 

 

フォークシリンダー先端部にガイドキャップを取り付けて完成です。

 


【650RS/W3用 インナーチューブ販売】


フロントフォークの組み立て

ボトムケース側の整備要領

ケース洗浄から錆落としまで、ケース単体の方がバフ仕上げも容易です。

ボトムケースの清掃

脱脂洗浄から錆落とし

定期的に整備を行っていないと、中はオイルが悪くなって水分と結合しヘドロになっています。
フォーク下部のボルトを緩めてインナーチューブとボトムケースの分割が出来たら、オイルシールを外して中を洗油にて洗浄します。

オイルシールは専用工具があると容易に取り外せます。
画像の物は京都ツール、「KTC」製品でとても使い易いです。


 

 

脱脂洗浄が終わったらワイヤーブラシでクリップ溝の錆を落としますが、ピックツールを併用すると更に隅々まで綺麗に出来ます。
その後オイルシールの収まる部分を耐水ペーパーで面修正して準備完了です。
この時、水の代わりにサラサラの潤滑剤を使うのがコツです。

       【作業前】

        【作業後】


 

 

 

組み込み準備が整った状態です。

 

 


 

オイルシールの組み込み

インナーチューブが新品でもオイル漏れ止め加工をします
漏れ止めにはシリコングリスの他、ワコーズの「バイダスドライ」を使います。

まず粉末タイプの潤滑剤「バイダスドライ」をスプレーし、そこへシリコングリスを塗布。
塗布後更にその上からバイダスドライを吹き付けます。

 

リンク先ではオイルシールのスプリングをカットしていますがここでは行いません

 

 

オイルシールはインナーチューブ下側から差し込みます。


 

 

 

オイルシールはインナーチューブ下部より1/3付近まで通し、ボトムケースを取り付けます。


 

 

オイルシール打ち込み用工具・スライディングハンマーでオイルシールを挿入します。
新品のワッシャーとクリップを取り付けて完了です。

塩ビ管を使って打ち込むDIY方法もありますがその場合、オイルシールを傷付けない様にリップ部分は配線用テープやマスキングテープで養生し、オイルシール上部には純正のワッシャーを被せてから塩ビ管を使うのが良いでしょう。

 

組み立ての完了したフロントフォーク

フロントフォークの組み立て ~フォークオイルの解説

同じ10番でもメーカーによって動粘度公称値は違います

メーカー指定オイル「G10」の動粘度は「33.9」です。
当時の指定は「2サイクルオイル」になっていましたが、現在の10番程度の粘度で丁度良い硬さです。

今回は同じ粘度で銘柄を「ASH/アッシュ」にして使います。エンジンオイルで高評価のメーカーですので期待も大きいです。使うのは「FD#33」、動粘度は「35.0」です。
いつも使うのはホンダ純正オイルの10番、動粘度は「35.2」ですのでほぼ同じ硬さです。

 


フォークオイルの調整

650RS/W3のフォークオイル規定量は「165cc」です。

現行車両と同じフォークオイルレベルでの調整方法は下記リンクを参考にして下さい


【650RS/W3のフォークオイルレベル調整】


【Z1/Z2のフォークオイルレベル調整】


A.S.H/アッシュ・フォークオイルについて

他メーカーの遥か上を目指したフォークオイルの製造方法

アッシュのフォークオイルは手間のかかった製造方法

アッシュ・フォークオイルは他メーカーと違いエンジンオイルと同じ製造方法という非常にコストの掛かった製品です。ですので温度変化による流動性能は高温になっても変わらず、また添加剤も他に類を見ない成分が添加されていますので同じ動粘度でも作動性が高いのが特徴です。
旧車独特の構造・ボトムケースにインナーチューブがただ突っ込まれていて、オイルシールでのみ支持されている物であってもこのフォークオイルを使うだけでまるでサスチューニングを施したかの様な豹変ぶりが体感可能です。決して大袈裟ではなく誰しもが肌で感じられる素晴らしい性能を持った製品です。

誰しもが体感出来るその性能

試乗前~試乗後の印象

フォークオイル注入・交換後、メインスタンドを外した瞬間から違いが分かります。
メインスタンドを外し前ブレーキをかけた瞬間の沈み込み方がしなやかなのと、インナーチューブとオイルシールが新しい時特有のギスギスとした感覚が全くありません。
柔軟な動きと合わせて「コシ」のある感じで、現行車両に通ずるサスペンションになった様に思います。
オーリンズとホワイトパワー製のフォークスプリングキットには専用オイルが付属します。スプリング交換と合わせてそのオイルを使いますが、ノーマルスプリングにこのアッシュオイルの組み合わせの方がしなやかで張りのあるサスペンションに生まれ変わります。過去に使ってきた歴代オイル達は完全に遥か遠い後方へと追いやられてしまいました。
構造変更無しでダンパーオイルの性能だけでここまでの性能向上は正直有り得ないはずなのですが、今回の検証で良い意味で本当に裏切られました。

実際に試乗してみるとブレーキング時の沈み込みは少なく、小さなギャップは軽くいなしている事が分かります。奥で踏ん張っている感じが強く、加減速で車体が物凄く安定しています。W3だけでなく同じ構造のZ1・Z2もそうなのですがブッシュもスライドメタルも付いていないので、車体が傾いている時に小さな段差を越えると「カチャン」と衝撃が伝わってきます。これはインナーチューブとボトムケース内壁が当たる音なのですが、このショックが軽減され衝撃として伝わってきていたものが滑らかな軽い振動程度に変わっています。これは凄い事だと思いますし、作動性能が明らかに向上したと納得出来る事象です。
特筆すべきはサスが良くなるとブレーキの利きも良くなると言う事。これは当たり前なのですが、サスがタイヤを路面に良く押し付けていると言う事からブレーキ性能が上がるのです。

旧車のフロントフォークがオイルのみでここまで飛躍的に性能が上がってくるとは想像しませんでしたので感動すら覚えます。エンジンオイルの時もそうでしたが感動を与えられるオイルである事に間違いありません。