Z1,Z2,W3 ブレーキキャリパーのOH
特に難しい整備ではありませんが、基本に立ち返っての作業方法でおさらいしていきます。
★画像では「W3」で解説しています
通常整備での分解ではなく、「レストア」時での作業風景です。これから修理・整備を始める方の参考になればと思います。
分解時の注意点
新車からのままですとここはレンチサイズは「8mm」と特に細く、六角部分がなめやすく苦労する事も少なくありません。まずはブリーダー頭頂部をハンマーで軽く叩き、ワコーズの「業務用ラスペネ」を塗布して30分程置いてから緩める作業を開始します。それでも緩まず「??」と感じたら速やかにブリーダー周辺(キャリパー側)をバーナーで熱し、12角ではなく「6角」のソケットを使い緩めます。
~~~画像はブレーキパイプ専用工具のブレーキパイプレンチで、切り欠きがパイプ部分の「逃げ」になっているものです。
油圧を掛けると言うのはブレーキレバーを幾度か握ってピストンを押し出す作業を指しています
キャリパー内部の清掃には「ピックセット」が便利
ピストンが抜けたらピストンシールを取り去ります。洗剤で洗浄して乾かした後、シール溝に溜まった腐食カスをゴリゴリとこそぎ落していきます(私はマイナスドライバーを加工したものとピックを併用して使っています)。
腐食粉が出なくなるまで綺麗に落としたならば、アルミクリーナーにて再洗浄して清掃は完了となります。実際にはアルミクリーナーは一般的ではないので溶剤は使わず、毛が細く柔らかい「真鍮ブラシ」でのフィニッシュで良いと思います。
ブレーキピストンの修正は重要事項
抜いたままのピストンは錆だらけの状態が必至。洗浄後真鍮ブラシで擦りあらかたの錆を落としたら、ワコーズ製品の「ピカタン」に付け置き一昼夜おけば素晴らしく綺麗な状態になります。
~~~判断しやすいよう同じ部分で写真を撮りました
★この修理方法は「フロントフォーク・インナーチューブ」も同様の工程で修正が可能です。
ブレーキピストンの面修正
~~~錆を落としても今回のケースの様に腐食が深い場合はその溝を埋めないとフルード漏れの原因になってしまいます。
修正方法はピカタン処理後よく乾燥させて脱脂し、「瞬間接着剤」を溝に盛り付けます(ジェルタイプでも可)。完全硬化後「1000番」の耐水ペーパーにて水研ぎして完成です。画像では最終仕上げとして指で研いでいますが、本来はペーパーに「あて木」をして平らな面で研ぐのが正解です。
★「水研ぎ」とは言っても実際には水の代わりに「潤滑剤」にて行い防錆に努めます。
瞬間接着剤は「コニシ・アロンアルフア」が有名・定番の感がありますが、「ダイソー・瞬間接着剤」のパフォーマンスが最高に良かったので追記しておきます。
~~~どちらも「日本製」と表記があり大阪の会社です。 今回のピストンではゼリー状が垂れずに使い易いでしょう。 アロンアルファは開封後1カ月経たずに先端部から硬化していくので使い切る前に固まって終わってしまう事が殆どでしたが、このダイソーブランドは硬化し難いキャップ構造で約半年以上固まらずに使い続ける事が出来ました。肝心な接着剤の「密着」についても剥がれる事無く同等以上の性能でした。
市販の2液ウレタンスプレーでペイント
分解時ですと塗装もしやすいので一緒に行うことをお勧めします。
ここでは「サンドブラスト」で下地処理を行っていますが、設備的に一般的ではありませんので、真鍮ブラシと180~240番程度のペーパーで錆の凸凹を平らにしてあげれば十分です。 「シリコンオフ」やパーツクリーナーで脱脂をしっかりしてから塗装に臨みます。
ブラストにて下地を作り終えたところです。このあとピストン部分とサポートのパッド部、シャフト穴のマスキングを行います。
デイトナから2液ウレタンスプレーが販売されています。黒だけでも「艶有り」「半艶」「艶消し」と揃っています(キャリパー色は「半艶」が丁度良い色合いです)。
ブレーキ、キャリパーの組み立て準備
塗装が終わったならばいよいよ組み立て作業に入ります
今回ここで使うケミカルは以下の3点です
- シリコングリース
- ブレーキプロテクター
- スレッドコンパウンド
~~~いずれも高性能で入手し易い「ワコーズ」製品を使っています
【キャリパー本体】
★ピストンとシール周りには「シリコングリース」を使います。
~~~ピストンにもグリスを塗布します。キャリパーに挿入しますが最後まで入れず、画像位まで先端部を飛び出させておいて「ピストンブーツ」を取り付けるようにすると装着し易く作業効率も向上します。
★パッド裏とシャフト穴には「ブレーキプロテクター」を使います(硬めのパッドグリス)。
パッド裏にグリスを塗る以前に、パッドがスムーズにスライド・動くかをチェックします。固い様子でしたら60~80番程度のペーパーでパッド側面を削って修正します。
→サポート側パッド面に錆や汚れが無い様に清掃してある事が前提です
適正なブレーキ・キャリパー組み立て方法
ここからこの整備の肝となる部分が出てきます。分かってしまえば「そうか」と思える簡単なコツでもあります。サポートにブーツが付き、シャフトにOリングがあるタイプのキャリパー全般での組み立て順序になります。
~~~シャフトに薄く潤滑剤(防錆剤入り)を塗布しキャリパーに差し込みます。
~~~シャフトをキャリパーに通した後に「Oリング」をはめます。
Oリング取り付け後、ブレーキプロテクター・パッドグリスをシャフトに塗布します。
同じパッドグリスをシャフト穴に注入したサポート穴へ取り付けます。
下側から覗くと分かり易いですね。
この状態まで組付けたらシャフト部分を数回スライドさせて、グリスを馴染ませます。
なぜこのような順序なのか?~これは先に「Oリング」を嵌めてキャリパー本体に組み込むと、隙間の関係からOリング外周が切れてしまい易いから。 経験上潤滑剤を塗り丁寧に押し込んでも、外周部分が切れてしまう事があった経験からこのような順序での組み立てを推奨しています。
ネジ部には固着防止のグリスを塗布
シャフト部分のネジには「スレッドコンパウンド」を塗って組付けます。固着防止になりますので整備上有益な処置になります。このグリスは耐熱でもありますのでエキゾースト周りのボルト・ナットには必ず使っているケミカルです。
キャリパーの組み立て方で変わるブレーキ作動性
ブレーキの「鳴き」や「引きずり」は組み立て不備によって起こっている場合も少なからずあるのが現状です。サポート・パッド面に錆が出ていてパッドがスライドせずそれが引きずりの原因であったり、パッド背面のグリスがなくパッドから「ビビり音」が発生したりと様々な要因で色々なトラブルが起こります。
ここの整備次第で引きずりと鳴きの問題が解決できるケースも少なくありませんので再確認しましょう。
~~~シャフトをレンチで締め込み固定していよいよの「完成」となります。
この後は新品のブリーダーを取り付け、リプロダクションのキャリパー・ステッカー(丸いプレート)を貼って本当の完成です。
分解に於いてはこれら一連の作業を逆に行うだけですが、その手順も記載しておきますので分解時の参考にして下さい。
- ブリーダーとブレーキパイプを緩めてから軽く締めておく
- 内側キャリパーの「+ネジ」を緩めてパッドを外す準備をしておく
- シャフト2本を緩めていき、内側キャリパーを外す。この時シャフトをサポート穴から抜かない様に注意する。
- ボトムケースとキャリパーを固定する「キャリパーボルト」を外す。
- 軽く固定していたブレーキパイプを緩め外す。
- キャリパーをサポートから外す。この時もシャフトがサポートから抜けない様に注意する。
- 「Oリング」4本を外してからシャフトをキャリパー本体から抜く。
~~~以上がブレーキ・キャリパーの脱着と分解・組み立ての詳細です。
純正ブレーキの性能維持は少々テクニックが必要ですが、以上の解説を踏まえて整備に臨めば解決出来ることも多いと思います。
是非今後のブレーキ整備にお役立てください。