Z1/Z2用FCRキャブレターを解説 ~定番のケイヒンFCR35を徹底分析

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Z1/Z2用FCRキャブレター Φ35サイズでの解説
Z1/Z2用FCR35をサンプルに解説

スタンダード排気量からボアアップ1100ccまでを広くカバーする「φ35」

ノーマルの750ccや900ccですと悩む所ですが、今後のチューニング度合い・1000cc以上にしようと明確な計画があるならば先を見据えてこの「φ35」が間違いない選択でしょう。


 

 


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新品購入から取り付けまでのノウハウ

キャブレターには京浜からのデリバリー品とディストリビューターからの販売品の2種が存在

双方の何が違うのかと言うと、まず生産者である京浜からの販売品。
これはその車種に合わせた「取り付け」が出来る状態、キャブレターピッチを合わせて出荷される物です。ですので取り付けは当然出来ますが、車種ごとに合わせたセッティングになった状態での出荷とはなっていません。

ディストリビューター品とは京浜から一度自社購入、そしてそれを独自のセッティングデータに基づき各車種に合わせた仕様で販売している物です。

 

 

ディストリビューター品の方が販売価格は高額になりますが、ある程度の基本セッティングが出ている状態ですので取り付け後に煮詰めて行くのには早道です。

メーカー販売品とディストリビューター品の違い

FCRには加速ポンプが装備されています

このポンプが実は厄介な存在でキャブレターボディよりも張り出した形状で、Zシリーズではカムチェーンテンショナーとの干渉が存在し、その為にキャブレターボディの並び替えが必要となります。

 

画像で一目瞭然、加速ポンプの位置が中央と側面と全く違ったボディの配列です。
(上がディストリビューター品で下が京浜製品)

   【京浜製品】                【ディストリビューター品】

京浜製品ではポンプ位置が2番にありカムチェーンテンショナーと干渉してしまいます。
ディストリビューター品ではキャブレターボディを分解・組み換えによってボディの並び替えを行って4番の位置にして干渉を解消しています。
京浜製品は干渉を避ける為にスピゴット(取り付け部分の筒)を長い物にして干渉しない様にしていますが実はこれがくせ者で、ポートが長くなってしまう事によってFCRの良き特性が損なわれてしまう事になります。ですのでスピゴットは長くせずポート長を短いまま装着するのが理想的なのです。
ディストリビューター品はFCRの特性を最大限に生かす為に既製キャブレターを分解して、キャブレターボディの並び替えを行っているのです。

Z用強化型とされカスタム全盛期の90年代より巷で出回っているカムチェーンテンショナーです。
ボディは大きく張り出ていて並び替えを行った製品でもフロートチャンバー下にある六角のキャップが当たってしまいます。ですので画像のテンショナーも干渉する部分を削って平らにして対処しています。

ポンプが右に配置されてもオイルクーラーホースに干渉はしません。
この辺りは狙っているのか偶然なのかは分かりませんが安心してオイルクーラーの取り付けが出来ます。

小型ボディも大型ボディもフロートチャンバーの大きさ・形状は同じサイズです。

 


 

左側がディストリビューター品で右側が京浜製品
京浜製品ではカムチェーンテンショナーとの干渉を避ける為に、スピゴットの長さは15mm程伸ばされています。
ディストリビューター品のセッティングはニードル径はそのままに、テーパー角がワンサイズ大きくとられており、メインジェットは10番アップでスロージェットは5番大きい物が装備されています。京浜製品でセットアップを進めると殆どの場合スロージェットは5番から7番程度大きなものに交換しています。この事からディストリビューター様は数多くのセッティング経験から、同じ様にセットアップしているのだと感じる部分でもあります。

京浜製は取り合えずその車両に取り付けが可能と言うだけで、ジェッティングは特にされておらずこれもキャブ口径だけに適合したサイズの物が取り付けられているだけです

新品で購入後にまず行うべき作業

セッティングの前に取り付けに関わる重要事項があります ~スピゴットの取り付け

箱を開けるとファンネルだけでなくスピゴットも外されたままの状態です。

 

画像はディストリビューター品を開封した物です。
Z1/Z2用ですのでフューエルホースも2本付属しています(京浜製品はホースの付属無し)。

まずスピゴットを取り付けますが、この部分はねじ込み方式です。

 

そのまま取り付けてもパッキンの設定がありませんので、二次エアー対策にネジ部に液状ガスケットを塗布するように指示があります。それで問題は無いのですが筆者は「シールテープ」を使っています。

シールテープは液体パッキンと同じ様なシール性能を持ち、外す時には容易に作業出来るのが良い所です。

スピゴットの取り付け前にキャブレター側のネジ山に異物が無いかを確認後、シールテープを巻かずにすんなりと回転挿入出来るかを必ず確認します。
(京浜製品で2機程ネジ山にアルミの加工屑が噛み込んでいた経験があります)

 

 

シールテープを巻く時のコツは、締め込む方向と逆方向に切り口を向ける事です。
そうしないとねじ込む時にテープが押し戻されてしまい綺麗に回転させる事が出来ません。


 

 

はみ出たテープはハサミの刃の部分を軽く当てながらスピゴットを回転させると簡単に切り離す事が可能です。

キャブレターボディ側・ネジ山の確認後シールテープを巻いて締め込みますが、ここは工具などは使わず手でギュっと止まる所でOKです。


バルブ廻りとベアリングへの注油

これを行うだけでその効果がアクセルの開閉に顕著に表れます。

ピストンバルブ左右のベアリングの軸受け部分とベアリング表面、そしてボディ接触する部分(ベアリング側面とピストンバルブ)へと注油を行います。
しかるべき潤滑剤を用いる事によってFCRの泣き所のボディ消耗を最小限に抑えることが出来ます。

 

ピストンを引き上げる部分のベアリングと、シャフト回転部分にも怠らず潤滑剤を注油します。

・・・(注)「しかるべき潤滑剤」とは当サイトでお馴染みの『ベルハンマー』です。

 

 


ディストリビューター品の出荷セッティング

 

Z1用FCR35mmのセッティングデータ

京浜製品とのジェッティングを比較考察

 【京浜製品】               【ディストリビューター製品】

メインジェット : 135番        メインジェット : 145番
スロージェット :  45番        スロージェット :  50番
ジェットニードル: 0CEMQ       ジェットニードル: 0CFMQ
エアスクリュー : 1回転戻し       エアスクリュー : 1-1/2回転戻し

双方共通なのは、エアージェットが200番、パイロットスクリュー1回転戻し、
ジェットニードル段数が4段目となっています。

こうしてみるとメインは大きくとられていますがジェットニードル径は変更が無く、テーパー角度のみワンサイズ大きな角度に変更が成されています。
ディストリビューター品の素晴らしい所は初期セットの良さもありますが、それ以上に秀逸なのが「キャブレター同調」。
今まで数多く交換作業をこなしてきましたが、1台残らずピタッと同調ゲージの針が同じ数値を指してきました(これは本当に凄い事です)。
FCR35パイからはインシュレーターを「Z1000J」の物に交換しないと取り付けが出来なくなります。そうすると負圧パイプがありませんので同調が取り難くなります。
でもディストリビューター品を使うのであれば必ず合っていますので、乱暴な話ですがそのままでも大丈夫な安心感があります。
反対に京浜製品は新品でも僅かにずれている物が殆どでした。

整備士の使命上必ず同調確認はしますが、ユーザー自ら取り付けを行う場合はディストリビューター品は本当に安心です。